東京高等裁判所 平成5年(行ケ)96号 判決
大阪府守口市京阪本通2丁目18番地
原告
三洋電機株式会社
同代表者代表取締役
高野泰明
鳥取県鳥取市南吉方3丁目201番地
原告
鳥取三洋電機株式会社
同代表者代表取締役
米山幸太郎
原告両名訴訟代理人弁理士
長野正紀
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 高島章
同指定代理人
清水康志
同
今野朗
同
野村泰久
同
関口博
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
「特許庁が平成2年審判第6668号事件について平成5年6月7日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和55年3月5日に出願された特願昭55-28322号を原出願とする分割出願として、同年11月13日、名称を「コードレス電話装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭55-160552号)したが、平成2年3月2日拒絶査定を受けたので、同年4月26日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第6668号事件として審理し、平成3年9月19日に出願公告(特公平3-61383号)したが、特許異議の申立てがあり、平成5年6月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年6月28日原告らに送達された。
二 本願発明の要旨
電話回線に接続された送受信機を備えた親局と、無線で結ばれた子局で構成され、親局を介して子局が外線と接続されるコードレス電話装置において、親局に、外線を保留状態に設定する手段と、保留状態を解除する手段と、子局を呼び出す制御信号を送信する手段と、子局との回線を形成する手段と、転送スイッチとを設け、前記親局は、外線の着信に応答した後に前記転送スイッチが操作されると、外線を保留状態に設定すると共に制御信号を送信して子局の呼び出しを行ない、当該制御信号による呼出しに子局が応答した場合には、制御信号の送出を停止すると共に子局との間の回線を形成し、その後の保留状態解除で外線と子局間の回線を形成し、子局の応答がない場合には、前記転送スイッチの再度の同一操作により、保留を解除して外線と親局間の回線を形成すると共に、制御信号の送出を停止することを特徴とするコードレス電話装置。(別紙図面1参照)
三 審決の理由の要点
1 本願発明の要旨
本願発明の要旨は前項記載のとおりであるが、これを構成要件ごとに符号を付して記すと次のとおりである。
(A1) 電話回線に接続された送受信機を備えた親局と、
(A2) 無線で結ばれた子局で構成され、
(A3) 親局を介して子局が外線と接続されるコードレス電話装置において、
(B1) 親局に、外線を保留状態に設定する手段と、
(B2) 保留状態を解除する手段と、
(B3) 子局を呼び出す制御信号を送信する手段と、
(B4) 子局との回線を形成する手段と、
(B5) 転送スイッチとを設け、
(C) 前記親局は、外線の着信に応答した後に前記転送スイッチが操作されると、外線を保留状態に設定すると共に制御信号を送信して子局の呼び出しを行い、
(D) 当該制御信号による呼出しに子局が応答した場合には、制御信号の送出を停止すると共に子局との間の回線を形成し、
(E) その後の保留状態解除で外線と子局間の回線を形成し、
(F) 子局の応答がない場合には、前記転送スイッチの再度の同一操作により、保留を解除して外線と親局間の回線を形成すると共に、制御信号の送出を停止すること
(G) を特徴とするコードレス電話装置。
2 甲各号証刊行物記載の発明
(1) 特開昭52-56805号公報(昭和52年5月10日出願公開。審決における甲第1号証、本訴における甲第6号証。以下「甲第6号証」という。)には、次のことが図面(別紙図面2参照)と共に記載されている。
ボタン電話装置の転送方式に関し、電話機Aが局線と通話中、ノンロック式の電鍵28Aを操作すると局線が保留され、該ノンロック式の電鍵28Aを操作中、電話機Bの発振器30Bが局線からの電流により駆動されると呼出表示の回路が形成され、該呼出表示に電話機Bが応答すると、局線が保留されるとともに、電話機Aと電話機Bは局線からの通話電流によって内線相互通話路が形成されること、内線相互通話の後に、電話機Aの送受器をかけフックスイッチ27Aが開くと、前記保留が解除されて局線と電話機Bとの通話路が形成されて転送か完了すること。
(2)〈1〉 特開昭55-5529号公報(昭和55年1月16日出願公開。審決における甲第2号証、本訴における甲第7号証。以下「甲第7号証」という。)には、次のことが図面(別紙図面3参照)と共に記載されている。
(a) 「基地局(1)の端子(A)と端子(B)は該基地局(1)と、ここでは省略されている交換局とを結ぶための端子である。」(2頁左上欄1行ないし3行)
(b) 「固定電話機(2)は接続器(3)を介して基地局(1)に設けられたスイッチ(ロ)、(ハ)の共通端子(C2)、(C3)にそれぞれ接続されている。」(2頁左上欄5行ないし7行)
(c) 「基地局(1)のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)は互いに関連して動作するスイッチで、操作ツマミ等を一方の側に設定すると端子(S1)と端子(C1)、端子(S2)と端子(C2)、端子(S3)と端子(C3)、端子(S4)と端子(C4)が接続され、その結果後述するように固定電話機(2)と他の加入者間の通話が可能となり、逆に操作ツマミ等を他の側に設定すると端子(M1)と端子(C1)、端子(M2)と端子(C2)、端子(M3)と端子(C3)、端子(M4)と端子(C4)がそれぞれ接続され、その結果後述するように移動電話機と他の加入者間の通話が可能となるとともに、移動電話機と固定電話機(2)間の通話が可能となる」(2頁左上欄8行ないし19行)
(d) 「基地局(1)のスイッチ(ホ)とスイッチ(ヘ)は互いに関連して動作し、リレー(4)によって駆動されるもので、リレー(4)が通電されているときは端子(E0)と端子(E1)、端子(F0)と端子(F1)が接続され、リレー(4)が通電されていない時は端子(E0)と端子(E2)、端子(F0)と端子(F2)が接続されるように構成されている。」(2頁左上欄20行ないし右上欄6行)
(e) 「スイッチ(ト)はリレー(5)によって駆動されるもので、リレー(5)が通電されているときは端子(G0)と端子(G1)が閉じ、リレー(5)が通電されていない時は端子(G0)と端子(G1)とが開くように構成されている。」(2頁右上欄7行ないし11行)
(f) 「端子(C1)、端子(S2)及び端子(G1)は共に端子(A)に接続され、端子(M1)と端子(G0)間にはネオンランプ(6)とコンデンサ(7)が直列に接続され、端子(M2)と端子(M4)は抵抗器を介して接続され、端子(S3)と端子(F1)は共に端子(A2)に接続され、端子(F1)と端子(F0)はコンデンサ(8)を介して接続され、端子(M2)と端子(E2)はコンデンサ(24)を介して接続され、端子(G0)と端子(E0)は直接接続され、端子(G0)と端子(E0)間にはトランス(T1)とトランス(T2)が直列撞続されている。なお、端子(S1)、(S4)、(E1)は空端子であり、又端子(M3)と端子(F2)は共に接地されている。」(2頁右上欄15行ないし左下欄6行)
(g) 「トランジスタ(Q3)は後述するようにデコーダ(11)の出力端子から、該トランジスタ(Q3)のベースに加えられる信号によって遮断又は導通するもので、そのコレクタは、増幅回路(14)の電源端子及びダイオード(15)を介して送信回路(16)の電源端子に接続されている。」(2頁左下欄17行ないし右下欄2行)
(h) 「送信回路(43)、発振回路(44)及び発振回路(45)の電源端子はフックスイッチ(ヌ)を介しそ直流電源(46)の正極に接続されている。」(3頁右下欄9行ないし11行)
(i) 「受信回路(41)のスケルチ端子にはブザー回路(47)が接続されており、該ブザー回路(47)は受信回路(41)が搬送波を受信した時発生するスケルチ信号によって動作し、かつフックスイッチ(ヌ)が閉じた時動作を停止するよう構成されている。」(3頁右下欄19行ないし4頁左上欄3行)
(j) 「スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が固定電話機側に設定されている場合、固定電話機(2)はスイッチ(ロ)の端子(C2)と端子(S2)及びスイッチ(ハ)の端子(C3)と端子(S3)を介して交換局と接続されるので、通常の電話機として他の加入者との通話が可能である。この時、スイッチ(ニ)の端子(C4)と端子(M4)が開いているので、リレー(4)及びリレー(5)は通電されることはなく、スイッチ(ト)も開状態にあるので、固定電話機(2)又は変換局と移動電話機との通話はできない。」(4頁左上欄4行ないし第14行)
(k) 「固定電話機(2)を受信した人が移動電話機の近くの人に転送したい場合は、相手側に転送の旨を告げ、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定して、コールスイッチ(チ)を閉じる。そうすることによってトランジスタ(Q2)のベース電位が低下してトランジスタ(Q2)が導通し、トランジスタ(Q2)が導通すると、送信回路(16)にトランジスタ(Q2)及びダイオード(21)を介して直流電源(9)が接続され、送信回路(16)が動作する。」(4頁右上欄14行ないし左下欄2行)
(m) 「そして、送信回路(16)から送信された搬送波を移動電話機の受信回路(41)が受信すると、該受信回路(41)のスケルチ信号により、ブザー回路(47)が動作する。」(4頁左下欄3行ないし5行)
(n) 「ブザー回路(47)の動作を聞いて近くの人が送受話器(42)を取り上げたら、以下記述する如く、移動電話機と固定電話機(2)間の通話が可能となる。即ち、送受話器(42)を取上げている間、フックスイッチ(ヌ)が閉じて発振回路(44)が動作し、10KHzのトーン信号が送信回路(43)から送信される。このトーン信号が受信回路(10)で受信され、デコーダ(11)に入力されると、該デコーダ(11)の出力は「L」レベルになり、発光ダイオード(13)を発行させ、トランジスタ(Q3)を導通させる。その結果、送受話器(42)を取上げている間は基地局(1)及び移動電話機の送信回路(16)、(43)、受信回路(10)、(41)、増幅回路(14)は共に動作し続ける。そして又、固定電話機(2)と基地局(1)の送信回路(16)間及び受信回路(10)間は、スイッチ(ロ)、コンデンサ(24)、スイッチ(ホ)、スイッチ(ハ)、スイッチ(ヘ)、トランス(T2)及びトランス(T1)を介して、それぞれ接続されるので、固定電話機(2)と移動電話機間の通話が可能である。従って、固定電話機(2)で受信した人は転送のあることを移動電話機に出た人に告げ、送受話器を置く。」(4頁左下欄6行ないし右下欄7行)
(p) 「次に、移動電話機の送受話器(42)を取上げた人は、固定電話機(2)と通話を終えたら一旦送受話器(42)を置いて、再度該送受話器(42)を持ち上げる。一旦、送受話器(42)を置くことにより、フリップフロップ回路(29)はリセットされるので、再度送受話器(42)を取り上げたときは、NOR回路(18)の出力は「H」レベルになり、トランジスタ(Q4)、(Q5)が導通し、リレー(4)、(5)は通電される。該リレー(4)、(5)が通電されると、スイッチ(ヘ)の端子(F0)と端子(F1)、スイッチ(ト)の端子(G0)と端子(G1)が接続され、かつ、基地局(1)と移動電話機の送信回路(16)、(43)及び受信回路(10)、(41)が共に動作しているので、移動電話機と他の加入者との通話が可能となる。」(4頁右下欄13行ないし5頁左上欄6行)
なお、前記(f)の「端子(G0)と端子(E0)間にはトランス(T1)とトランス(T2)が直列接続されている」(2頁左下欄3行、4行)は「端子(G0)と端子(F0)間にはトランス(T1)とトランス(T2)が直列に接続されている」の、また、「前記(j)の「変換局と移動電話機」(第4頁左上欄13行)は「交換局と移動電話機」の、また、前記(n)の「発光ダイオード(13)を発行させ」(第4頁左下欄14行)は「発光ダイオード(13)を発光させ」のそれぞれ誤記と認められる。
〈2〉 ここで、固定電話機(2)から移動電話機に転送したい場合、前記(k)の転送の旨を告げる相手は、前記(j)及び(k)から他の加入者であり、また、該転送終了後に前記移動電話機と通話できるのは、前記(k)、(m)、(n)、(p)から、前記転送の旨を告げられた他の加入者である。また、前記(n)で、前記固定電話機(2)で受信した人が転送のあることを前記移動電話機に出た人に告げるとき、前記(k)より、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が移動電話機側にあって、しかも前記(p)より、前記移動電話機が一旦送受話器(42)を置いて再室持ち上げるまではリレー(4)、(5)が通電されておらず、交換局と基地局(1)とを結ぶ端子(A)、(B)と、前記固定電話機(2)との間、あるいはトランス(T1)、(T2)との間には、コンデンサ(7)、(8)が介される。
ところで、前記(j)に「・・・スイッチ(ト)も開状態にあるので、固定電話機(2)又は交換局と移動電話機との通話はできない」(4頁左上欄12行ないし14行)とあり、このとき、前記移動電話機側と結合するトランス(T1)、(T2)と、前記固定電話機(2)との間、あるいは交換局につながる端子(A)、(B)との間は、前記コンデンサ(7)、(8)が介される。
してみると、前記コンデンサ(7)、(8)が介されると、通話ができなくなり、前記(n)の、「固定電話機(2)で受信した人は転送のあることを移動電話機に出た人に告げる」ときには、前記固定電話機(2)は、前記他の加入者と通話ができない状態にある。
したがって、前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定することにより、他の加入者との通話が保留状態になるといえる。
また、前記(k)の「固定電話機(2)が受信した」は、このときスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が固定電話機側にあること、及びこの状態のとき「通常の電話機として他の加入者との通話が可能」との記載が前記(j)にある(4頁左上欄8行、9行)ことから、他の加入者からの着信に応答して前記固定電話機(2)が受信したことを意味するものといえる。
なお、前記他の加入者との通話が前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定することで保留状態とされた後、前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側から前記固定電話機(2)側に設定すると、前記端子(A)、(B)と該固定電話機(2)との間に、コンデンサ(7)、(8)が介されていないので、前記他の加入者と固定電話機(2)との通話が可能となることは、前記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(j)より明らかであり、前記他の加入者との保留状態が解除されたといえる。
また、前記(d)、(e)、(f)、(n)、(p)より、リレー(4)、(5)を通電して、スイッチ(ヘ)の端子(F0)と端子(F1)、スイッチ(ト)の端子(G0)と端子(G1)を接続させることも、前記端子(A)、(B)と前記移動電話機側と結合するトランス(T1)、(T2)との間に、前記コンデンサ(7)、(8)が介挿されないので、他の加入者と前記移動電話機との通話が可能となり、前記の保留状態が解除されたといえる。
〈3〉 以上のことから、甲第7号証には、交換局に接続された加入者の基地局(1)に接続された固定電話機(2)が、他の加入者の着信に応答した後に、該固定電話機(2)から、該基地局(1)と無線で接続された移動電話機に転送するため、前記固定電話機(2)を、前記交換局と結ぶ基地局(1)の端子(A)及び(B)から、互いに関連して動作するスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定して、他の加入者との通話を保留状態とした後、コールスイッチ(チ)を閉じて前記基地局(1)の送信回路(16)を動作させ、該送信回路(16)から搬送波を前記移動電話機に送信し、該移動電話機では受信回路(41)がこの搬送波を受信すると、該受信回路(41)のスケルチ信号によりブザー回路(47)が動作し、該移動電話機側で該ブザー回路(47)の動作を聞いて送受話器(42)が取り上げられると、前記ブザー回路(47)の動作が停止すると共に、前記移動電話機の発振回路(44)と送信回路(43)に直流電源(46)が接続されて該発振回路(44)と送信回路(43)とが動作し、該送信回路(43)からトーン信号が前記基地局(1)に送信される。該基地局(1)の受信回路(10)で前記トーン信号が受信されて、デコーダ(11)に入力されると、デコーダ(11)はトランジスタ(Q3)を導通させ、前記受信回路(10)につながる増幅回路(14)と送信回路(16)に電源が供給される。この結果、送受話器(42)を取り上げている間は基地局(1)及び移動電話機の送信回路(16)、(43)、受信回路(10)、(41)、増幅回路(14)に共に動作し続け、また、固定電話機(2)と基地局(1)の送信回路(16)間及び受信回路(10)間は、スイッチ(ロ)、コンデンサ(24)、スイッチ(ホ)、スイッチ(ハ)、スイッチ(ヘ)、トランス(T2)及びトランス(T1)を介してそれぞれ接続され、前記固定電話機(2)と移動電話機間の通話が可能となり、固定電話機(2)の送受話器が置かれた後、移動電話機の送受話器(42)が一旦置かれ再度取り上げられると、前記基地局(1)のリレー(4)、(5)が通電して、スイッチ(ヘ)の端子(F0)と端子(F1)、スイッチ(ト)の端子(G0)と端子(G1)が接続され、前記他の加入者との保留状態が解除されて、前記移動電話機と前記他の加入者との通話が可能となることが記載されている。
また、前記他の加入者との通話が、前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定することで保留状態とされた後、前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を、前記移動電話機側から前記固定電話機(2)側に設定すると、前記他の加入者との前記保留状態が解除され、該他の加入者と固定電話機(2)との通話が可能になること、また、コールスイッチ(チ)を開くと、前記基地局(1)の送信回路(16)が不動作となって、搬送波の送出が停止し、前記移動電話機の受信回路(41)で前記搬送波が受信されないので、該受信回路(41)からスケルチ信号が出力されず、したがって、前記移動電話機のブザー回路(47)の動作が停止することが開示されている。
3 本願発明(3、4項においては「前者」という。)と甲第7号証に記載・開示されたもの(同じく「後者」という。)との対比
(1) 一致点
〈1〉 前者における構成(A1)の「電話回線に接続された送受信機を備えた親局」と、構成(A2)の「無線で結ばれた子局」は、後者の、交換局側が「電話回線」に、そして該交換局に接続された加入者の基地局(1)及びこれに接続された固定電話機(2)が「送受話器を備えた親局」に、移動電話機が「子局」にそれぞれ対応しており、したがって、後者もコードレス電話装置といえる。
〈2〉 前者における構成(B1)の「親局に、外線を保留状態に設定する手段」は、後者の、前記交換局と結ぶ基地局(1)の端子(A)及び(B)から交換局側が「外線」に、そして、前記固定電話機(2)を前記端子(A)及び(B)から、移動電話機側に設定する互いに関連して動作するスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が、「保留状態に設定する手段」にそれぞれ対応する。
〈3〉 前者における構成(B2)の「保留状態を解除する手段」は、後者の前記基地局(1)のリレー(4)及び(5)を通電してスイッチ(ヘ)の端子(F0)と端子(F1)、スイッチ(ト)の端子(G0)と端子(G1)とを接続させること、又は前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を前記固定電話機(2)側に設定することに対応している。
〈4〉 前者における構成(B3)の「子局を呼び出す制御信号」は、後者の搬送波に対応している。
〈5〉 前者における構成(B4)の「子局との回線を形成する手段」は、後者の、送受話器(42)を取り上げている間は基地局(1)及び移動電話機の送信回路(16)、(43)、受信回路(10)、(41)、増幅回路(14)は共に動作し続け、そしてまた、固定電話機(2)と基地局(1)の送信回路(16)間及び受信回路(10)間は、スイッチ(ロ)、コンデンサ(24)、スイッチ(ホ)、スイッチ(ハ)、スイッチ(ヘ)、トランス(T2)及びトランス(T1)を介してそれぞれ接続され、前記固定電話機(2)と移動電話機間の通話が可能となることに対応している。
〈6〉 前者における構成(D)の「子局が応答」は、後者の子局である移動電話機の送受話器(42)が取り上げられると、トーン信号が前記基地局(1)に送信されることに対応している。
〈7〉 ところで、前者は、子局の応答がなければ、保留状態を解除して外線と親局間の回線を形成すると共に、子局を呼び出す制御信号の送出を停止する。これに対し、後者は、子局となる移動電話機の応答がない場合について記載がない。
しかしながら、子局となる移動電話機の応答がなければ、元の状態に戻すことは転送技術において自明であって、しかも、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側から固定電話機側に設定すると保留状態を解除し、他の加入者と固定電話機(2)との通話が可能となること、また、コールスイッチ(チ)を開くと前記制信号に相当する搬送波の送出を停止できることが開示されていることから、後者も、子局となる移動電話機の応答がなければ、保留状態を解除して外線となる他の加入者と親局間の回線を形成すると共に、子局を呼び出す制御信号の送出を停止するといえる。ただ、かかる動作に関連して、前者は転送スイッチを操作するのに対し、後者はスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)を操作している。
そこで、前記転送スイッチと(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)とコールスイッチ(チ)とについて更に考究する。
前者の転送スイッチは、親局から子局への転送に関連する前記(C)の外線の保留及び制御信号の送出と、(F)の外線の保留解除及び制御信号の送出停止にかかり、ここにいう前記転送スイッチは、該(C)及び(F)のためのスイッチに外ならない。
これに対し、後者においては、前記スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が、外線となる他の加入者との保留状態とその解除を、また、前記コールスイッチ(チ)が、子局となる移動電話機を呼び出す制御信号の送出とその停止をするものであることから、前者の転送スイッチが、後者のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)に対応しているといえる。
〈8〉 したがって、両者は、
「電話回線に接続された送受信機を備えた親局と、
無線で結ばれた子局で構成され、
親局を介して子局が外線と接続されるコードレス電話装置において、
親局に、外線を保留状態に設定する手段と、
保留状態を解除する手段と、
子局を呼び出す制御信号を送信する手段と、
子局との回線を形成する手段と、
を設け、
前記親局は、外線の着信に応答した後に、外線を保留状態に設定すると共に制御信号を送信して子局の呼び出しを行い、
当該制御信号による呼出しに子局が応答した場合には、子局との間の回線を形成し、
その後の保留状態解除で外線と子局間の回線を形成すること、
子局の応答がない場合には、保留を解除して外線と親局間の回線を形成すると共に、制御信号の送出を停止すること
を特徴とするコードレス電話装置。」
である点で一致する。
(2) 相違点
前者と後者の相違点は次のとおりである。
〈1〉 外線を保留状態としあるいはこれを解除すると共に、子局を呼び出す制御信号の送出あるいはこれを停止するものが、前者は転送スイッチ、即ち単一のスイッチであるのに対し、後者はスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)、即ち2種類のスイッチである点(以下「相違点〈1〉」という。)
〈2〉 前者の転送スイッチは、外線を保留状態及び制御信号を送出状態に設定するスイッチ操作と、外線の保留状態の解除及び制御信号の送出を停止状態に設定するスイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行うものであるのに対し、後者のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)は、設定と設定解除のスイッチ操作がそれぞれ同一と記載されていない点(以下「相違点〈2〉」という。)
〈3〉 前者は、制御信号による呼出に子局が応答した場合、制御信号の送出を停止するのに対し、後者は、制御信号にる呼出に子局となる移動電話機が応答した場合、制御信号の送出を停止させず、子局となる移動電話機の受信回路(41)が該制御信号を受けて出力するスケルチ信号で動作するブザー回路(47)の動作を停止させる点(以下「相違点〈3〉」という。)
4 相違点の検討
(1) 相違点〈1〉について
前者の転送スイッチが単一のスイッチであることにより、保留及びその解除と、制御信号の送出及びその停止という2種類の動作を、一操作により行わせることができるので、前記2種類の動作を、各動作に対応したスイッチ毎に操作する後者に比べ、操作が簡単となるものである。
ところで、甲第6号証には、ボタン電話装置の転送方式に関し、電話機Aが局線と通話中、ノンロック式の電鍵28Aを操作すると局線が保留され、該ノンロック式の電鍵28Aを操作中、電話機Bの発振器30Bが局線からの電流により駆動されると呼出表示の回路が形成されることが記載されている。即ち、局線の保留と呼出表示という2種類の動作を、単一のスイッチである電鍵28Aを操作することにより行わせることにより、操作を簡単にすることが記載されている。そして、甲第6号証記載のものと後者は共に転送技術にかかることから、甲第6号証の2種類の動作を単一のスイッチ操作で行わせるという技術思想を、後者のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)にも適用し、これらのスイッチを単一のスイッチにして操作を簡単にしようと着想することに、格別発明力を必要とするものと認められない。したがって、後者の2種類のスイッチを、前者のように単一のスイッチにすることは、当業者が容易に想到し得ることにすぎない。
(2) 相違点〈2〉について
前者は、外線の保留及び制御信号の送出状態を設定するスイッチ操作と、外線の保留の解除及び制御信号の送出の停止状態を設定、換言すれば外線の保留及び制御信号の送出状態の設定を解除するスイッチ操作とが、同一の操作であるが、設定と該設定の解除とを同一の操作で行うスイッチ自体は、親局と子局を無線で結ぶ通信技術分野において周知(必要なら例えば、特開昭49-40404号公報における、親局の個別呼出用ボタン16aの同一操作で、電源スイッチングトランジスタ35が導通、あるいは非導通となる旨の記載を参照のこと。該導通あるいは非導通が、設定あるいは設定解除に相当する。)であり、特にスイッチの同一操作で設定及びその解除を行わせるスイッチを採用したことにより、作用効果において格別なものがあると認め難いので、相違点〈2〉に発明があると認めることができない。
(3) 相違点〈3〉について
前者と後者は、共に子局の応答で呼出が停止するものであり、かかる停止を、制御信号の送出停止で行うか、あるいは制御信号の送出を停止させず、子局となる移動電話機の受信回路(41)が該制御信号を受けて出力するスケルチ信号で動作するブザー回路(47)の動作停止で行うかにより、作用効果上、格別なものがあると認め難いので、相違点〈3〉に発明があると認めることはできない。
5 以上のとおりであるから、本願発明は、甲第6号証及第7号証に記載ないし開示されたもの、及び周知事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
四 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点1、2(1)、2(2)〈1〉は認める。同2(2)〈2〉、〈3〉は争う。同3(1)〈3〉は認める。同3(1)〈2〉、〈3〉は争う。同3(1)〈4〉ないし〈6〉は認める。同3(1)〈7〉、〈8〉は争う。同3(2)〈1〉ないし〈3〉は認める。同4(1)ないし(3)、同5は争う。
1 一致点の認定の誤り(取消事由1)
審決は、甲第7号証の解釈、認定を誤り、本願発明と同号証記載のものとの一致点の認定を誤ったものである。
甲第7号証には、固定電話機側(本願発明の親局に相当)が受けた外線を保留して移動電話機側(本願発明の子局に相当)に転送することができるとの記載はあるが、外線を保留、転送できる技術が具体的に開示されていないばかりでなく、一部事実に反することが記載されているのであって、同号証の電話装置は、固定電話機側が受けた外線を保留して移動電話機側に転送することができないものである。
しかるに審決は、甲第7号証の誤った記載に基づいて、同号証の電話装置は、保留、転送ができるとの誤った解釈、認定をしたものである。
甲第7号証の電話装置が、保留、転送ができない理由は次のとおりである。
通常、交換機側からの呼出信号により、電話機のベルが鳴動し、電話機の送受話器を持ち上げると、送受話器のOFF HOOKにより交換機と電話機との間に直流ループが形成され、交換機のリレーが動作し応答を知らせる。交換機のリレーは交流不感動、直流感動であって、このリレーの動作により、交換機は発信側と着信側との間を接続する。このように電話回線が接続されているためには、交換機と送受話器との間に直流ループが形成され、交換機のリレーが動作していることが必要である。
ところで、甲第7号証の電話装置は、固定電話機側が受けた外線を保留して移動電話機側に転送しようとして、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を固定電話機側から移動電話機側に切り替えると、電話回線と固定電話機との間の関係は、ネオンランプ6、コンデンサ7が介装されるため直流ループが遮断され、固定電話機は回線が解放される。すなわち、電話回線が切れたことになり、保留、転送することはできないことになるから、甲第7号証の、親局が受けた外線を保留して子局に転送することができる旨の記載は事実に反するのである。
したがって、甲第7号証の電話装置は保留、転送ができるとした審決の認定は誤りであり、この認定を前提とする一致点の認定も誤りである。
被告は、受信側が先に送受話器を下ろしても回線が保留となるような交換機が、本願発明の出願時当業者において周知である旨主張しているが、仮にそうであるとしても、甲第7号証には、受信者が先に送受話器を下ろしても回線が保留できるとの説明がない以上、審決のように認定することは誤りである。
2 相違点〈1〉の判断の誤り(取消事由2)
本願発明は、1個の転送スイッチに、保留、保留の解除、制御信号の送出、及び制御信号の停止という4つの動作を行わせることにより、電話機の操作を簡単にするようにしたものである。
甲第6号証記載のものも、電鍵28Aの操作により保留と呼出表示の回路を形成するようにした点において、本願発明における転送スイッチの動作と一部共通する部分があるが、同号証には、保留の解除及び呼出表示回路の解除については何ら記載されていない。
上記のとおり、甲第6号証記載のものは、本願発明の必須の構成である、1個の転送スイッチで、保留、保留の解除、制御信号の送出、及び制御信号の停止という4つの動作を行わせる構成を有しておらず、また、本願発明の上記のような作用効果を期待することができないものである。
したがって、甲第6号証をもってしても、甲第7号証の2種類のスイッチを、本願発明のように単一のスイッチにすることは当業者が容易に想到し得ることではないというべきであって、相違点〈1〉についての判断は誤りである。
3 相違点〈2〉の判断の誤り(取消事由3)
(1) 審決は、本願発明と甲第7号証記載のものとの相違点〈2〉の具体的な点を無視して、その具体的な点を、単に設定と該設定の解除とを同一のスイッチ操作で行うにすぎないものであると抽象的に把握し、その抽象的な事項が周知であることを根拠に、相違点〈2〉に発明があると認めることができないと判断している。
本願発明は、転送スイッチに、保留、保留の解除、制御信号の送出、及び制御信号の停止という4つの動作をさせることを大前提にし、その4つの動作をさせるのに、転送スイッチを同一操作で行うようにしているのである。そして、上記4つの動作をさせるのに、転送スイッチを同一操作で行うことにより、操作が簡単であるという作用効果を奏するものである。
したがって、甲第8号証により、設定と該設定の解除とを同一の操作で行うスイッチ自体が、親局と子局を無線で結ぶ通信技術分野において周知であるとしても、そのことから甲第7号証の2種類のスイッチを、本願発明のように単一のスイッチにし、かつ、同一の操作とすることは、当業者が容易に想到し得ることではなく、相違点〈2〉についての判断は誤りである。
(2) 本願発明と甲第7号証記載のものとの間に被告主張のような一致点があるとしても、両者の間には審決認定の相違点〈2〉があり、かつ、甲第7号証に記載されていないところの本願発明の必須の構成要件の一部である「転送スイッチは、外線を保留状態にすること、制御信号を送出状態とすること、外線の保留状態を解除すること、及び、制御信号の送出を停止状態にするための各スイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行う点」については、甲第8号証にも何ら示されていない。本願発明の必須の構成要件の一部のさらにその一部である制御信号を送出状態にすることと、制御信号の送出を停止状態とするための各スイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行うことが甲第8号証に記載されていても、外線を保留状態にすることと、外線の保留を解除するための各スイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行うことが同号証に記載されていないのであるから、やはり相違点〈2〉の判断は誤りでである。
4 相違点〈3〉の判断の誤り(取消事由4)
審決は、相違点〈3〉について、作用効果上、格別なものがあるとは認め難いので、同相違点に発明があると認めることができない旨判断している。
確かに、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、本願発明も甲第7号証記載のものも、子局のブザーが鳴らないようにした点では共通しているが、子局のブザーが鳴らないようにするための手段として、親局で送出信号を止めてしまうことと、子局が親局からの信号を受けた状態でブザー回路そのものを切ることとは技術的に全く相違し、その作用効果も相違するのである。本願発明の場合、親局で送出信号を止めてしまうので、子局が親局からの信号を受けた状態でブザー回路そのものを切る場合に比べて、消費電力の節約や通話中に雑音がでにくいという作用効果を奏するのである。
そして、出願に係る発明と対比される発明との間に構成上の差が存する場合、その差が容易に想到し得るものと判断するには、その構成の差そのものが公知であることが必要であって、明細書に公知の技術と同じ作用効果しか記載されていないことをもって、構成の差を無視し、当該発明が容易であるとするのは相当ではないものというべきところ、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、親局で送出信号を止めてしまうという構成は公知ではない。
したがって、相違点〈3〉についての判断は誤りである。
5 顕著な作用効果の看過(取消事由5)
本願発明は、転送スイッチの同一操作で保留、保留の解除、制御信号の送出、制御信号の送出の停止という4つの動作を行わせることに特徴があり、これにより、電話機の操作を簡便にするという作用効果を奏するものである。
これに対し、甲第6、第7号証には、上記のような作用効果が予測できる事項は記載されていないから、上記作用効果は顕著なものというべきべきところ、審決はこの点についての判断をしていない。
第三 請求の原因に対する認否及び反論
一 請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。
審決の認定、判断は正当であって、原告ら主張の違法はない。
二 反論
1 取消事由1について
甲第7号証は、固定電話機が外線からの呼を受信後、受信側である固定電話機の直流ループを遮断しても、発信側である他の加入者が先に送受話器を下ろさない限りは回線が保留されることを当然の前提として、保留、転送の技術を開示しており、交換機に関する直接の記載はないが、甲第7号証の交換機は、固定電話機が外線からの呼を受信後、受信側である固定電話機と回線との間の直流ループが遮断されても、回線を保留するものである。そして、発信者と受信者との間に交換機を介して回線が設定された後に、発信者が送受話器を着信者よりも先に下ろさない限り、たとえ着信者が先に送受話器を下ろしても回線が保留となるような交換機は、甲第7号証の発明の出願時に当業者において周知である(乙第1号証の122頁、129頁、130頁)。
上記のとおり、甲第7号証の保留、転送の動作を裏付ける交換機が、同号証の出願日以前に存在し、同号証の記載内容は事実に反するものではないから、同号証の解釈、認定において、固定電話機が外線からの呼を受信し、該固定電話機と交換機間の回線で直流ループが形成された後、該固定電話機と回線との間の直流ループを遮断すると回線が切れてしまう交換機のみを前提にする原告らの主張は誤りであって、審決における同号証の保留、転送に関する解釈、認定に誤りはない。
したがって、一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2について
本願発明は、転送スイッチが単一のスイッチであることにより、保留及びその解除と、制御信号の送出及びその停止という2種類の動作を、一操作により行わせることができるので、甲第7号証記載のものに比べて操作が簡単であるところ、甲第6号証には、局線の保留と呼出表示という2種類の動作を、単一のスイッチである電鍵28Aを操作することにより行わせることにより、操作を簡単にすることが記載されているのであるから、この技術を甲第7号証のスイッチに適用することは、当業者において容易に想到し得ることである。
なお、転送の際には、「外線を保留すると共に、制御信号を送出する」べくスイッチを操作し、子局が応答しなければコードレス電話装置を復旧させるために「外線の保留を解除すると共に、制御信号の送出を停止する」べく、スイッチを操作する、すなわち、転送に際して、「外線を保留すると共に、制御信号を送出する」こと、及び、「外線の保留を解除すると共に、制御信号の送出を停止する」ことは、それぞれ1セットの動作であって、甲第6号証には、保留の解除、制御信号の停止については記載がないが、これらは、子局が応答しない場合、復旧のための自明の動作である。
したがって、相違点〈1〉についての審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3について
審決で認定した相違点〈2〉は、本願発明の転送スイッチと甲第7号証のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)とが、これらのスイッチ操作により、外線を保留状態及び制御信号を送出状態に設定すること、外線の保留状態の解除及び制御信号の送出を停止状態に設定することで一致することを前提としており、改めて該一致点について言及するまでもないことであって、審決が相違点〈2〉における具体的な点を無視した旨の原告らの主張は失当である。
また、原告らは、本願発明は、転送スイッチを同一操作することにより、使用者に対する操作方法を簡便にすることができるという格別の作用効果を奏するものであると主張するが、設定と設定の解除とを同一の操作で行えれば、同一のスイッチ操作で交互に設定と設定の解除とが行えるので、操作が簡単となることは自明のことであり、また、前記2において述べたように、局線通話の転送に際し、単一のスイッチとすることにより、操作が簡単となることも甲第6号証に開示されていることであるから、本願発明における、転送スイッチを同一操作することにより、使用者に対する操作方法を簡便にすることができるという明細書記載の作用効果は格別なものということはできない。
したがって、相違点〈2〉についての審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4について
原告らは、本願発明は、相違点〈3〉の構成により、親局で送出信号を止めてしまうので、子局が親局からの信号を受けた状態でブザー回路そのものを切るのに比べて消費電力の節約や通話中の雑音がでにくいという作用効果を生じると主張するが、本願明細書及び図面にはこの点についての記載はないし、また、上記作用効果を奏することが自明であるとする根拠も見出せないので、上記主張は失当である。
また、原告らは、出願に係る発明と対比される発明との間に構成上の差が存する場合、その差が容易に想到し得るものと判断するには、その構成の差そのものが公知であることが必要であるところ、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、親局で送出信号を止めてしまうという構成は公知ではない旨主張している。
しかし、審決は、子局の呼出しの停止を、制御信号の送出停止で行うか、子局のブザー回路の停止で行うかについて、どちらを採用するかに技術的意義を認めず、これを設計事項として新規性を否定したものである。そして、呼出しに対する応答技術に関して、搬送波の変調を介して送出される制御信号(呼出信号)の送出を停止する手段を制御信号の送出側に設ける例が乙第2号証に、また、呼出し(制御信号)の発振音を停止する手段を応答側に設ける例が乙第3号証にそれぞれ記載されているとおり、いずれも周知技術として当業者に知られており、乙第2号証の呼出しに対する応答技術は本願発明に、乙第3号証の呼出しに対する応答技術は甲第7号証にそれぞれ対応する技術である。
したがって、相違点〈3〉についての審決の判断に誤りはない。
5 取消事由5について
本願発明における転送スイッチを同一操作することにより、使用者に対する操作方法を簡便にすることができるという明細書記載の作用効果は、甲第6号証及び甲第8号証の記載からみて、格別な作用効果とはいえない。
また、甲第7号証において本願発明の基本構成が開示され、相違点〈1〉ないし〈3〉に係る本願発明の作用効果も格別のものとはいえないのであるから、改めて本願発明全体について言及し、判断するまでもないことは明らかであって、審決が本願発明の全体としての作用効果につき特段言及しなかったとしても違法ということはできない。
第四 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)、三(審決の理由の要点)、及び、審決の理由の要点2(1)、2(2)〈1〉、3(1)〈1〉、〈4〉ないし〈6〉、3(2)〈1〉ないし〈3〉については、当事者間に争いがない。
二 本願発明の概要
甲第2号証(本願公告公報)、第3号証(本願の特許願書)、第4号証(平成2年5月23日付け手続補正書)、及び第5号証(平成4年6月25日付け手続補正書)によれば、本願発明は、「電話回線に接続され、送受信機を備えた親局と、無線で結ばれた子局で構成され、親局を介して子局が外線と接続されるコードレス電話装置に関する」(甲第2号証2欄1行ないし4行)ものであるが、従来のコードレス電話装置においては、「親局からの転送時における子局の応答では、この子局の呼出しは停止せず、親局側で呼び出しを停止させる操作が必要となる。又、子局の応答がない場合は親局側のハンドセットを置くことで保留状態は解除できるが、これに応答して子局の呼び出しは停止せず、この場合も親局側で呼び出しを停止させる操作が必要となる。」(同2欄13行ないし3欄1行」との知見のもとに、前示要旨のとおりの構成を採択したものであり、本願発明のコードレス電話装置は、「転送スイッチの最初の操作で外線を保留状態に設定すると共に子局を呼出す制御信号を送信し、そして子局の応答で制御信号の送信を停止すると共に親局と子局間の回線を形成し、更に子局の応答がない場合、再度転送時と同様に転送スイッチを操作することで保留を解除して外線と親局の回線を形成すると共に制御信号の送信を停止するようにしたものであるから、これにより転送に対する応答時、専用の操作をすることなく制御信号の送信の停止及び親局と子局間の回線の形成を行うことができ、そして転送の呼出しとその転送の解除を同一スイッチで且つ同一操作で行なうことができ、使用者に対する操作方法を簡便にすることができることになる。」(甲第5号証2頁10行ないし3頁3行)という作用効果を奏するものであることが認められる。
三 取消事由に対する判断
1 取消事由1について
原告らは、甲第7号証の電話装置は、固定電話機側が受けた外線を保留して移動電話機側に転送しようとして、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を固定電話機側から移動電話機側に切り替えると、電話回線と固定電話機との間の関係は、ネオンランプ6、コンデンサ7が介装されるため直流ループが遮断され、固定電話機は回線が解放されて電話回線が切れたことになり、保留、転送することができないことになるから、甲第7号証の、親局が受けた外線を保留して子局に転送することができる旨の記載は事実に反し、したがって、甲第7号証の電話装置は保留、転送ができるとした審決の認定は誤りであり、この認定を前提とする一致点の認定も誤りである旨主張するので、この点について検討する。
(1) 甲第7号証には、「固定電話機(2)を受信した人が移動電話機の近くの人に転送したい場合は、相手側に転送の旨を告げ、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定して、コールスイッチ(チ)を閉じる。そうすることによってトランジスタ(Q2)のベース電位が低下してトランジスタ(Q2)が導通し、トランジスタ(Q2)が導通すると、送信回路(16)にトランジスタ(Q2)及びダイオード(21)を介して直流電源(9)が接続され、送信回路(16)が動作する。そして、送信回路(16)から送信された搬送波を移動電話機の受信回路(41)が受信すると、該受信回路(41)のスケルチ信号により、ブザー回路(47)が動作する。ブザー回路(47)の動作を聞いて近くの人が送受話器(42)を取り上げたら、以下記述する如く、移動電話機と固定電話機(2)間の通話が可能となる。即ち、送受話器(42)を取上げている間、フックスイッチ(ヌ)が閉じて発振回路(44)が動作し、10KHzのトーン信号が送信回路(43)から送信される。このトーン信号が受信回路(10)で受信され、デコーダ(11)に入力されると、該デコーダ(11)の出力は「L」レベルになり、発光ダイオード(13)を発光させ、トランジスタ(Q3)を導通させる。その結果、送受話器(42)を取上げている間は基地局(1)及び移動電話機の送信回路(16)、(43)、受信回路(10)、(41)、増幅回路(14)は共に動作し続ける。そして又、固定電話機(2)と基地局(1)の送信回路(16)間及び受信回路(10)間は、スイッチ(ロ)、コンデンサ(24)、スイッチ(ホ)、スイッチ(ハ)、スイッチ(ヘ)、トランス(T2)及びトランス(T1)を介して、それぞれ接続されているので、固定電話機(2)と移動電話機間の通話が可能である。従って、固定電話機(2)で受信した人は転送のあることを移動電話機に出た人に告げ、送受話器を置く。」(4頁右上欄14行ないし右下欄7行)、「次に、移動電話機の送受話器(42)を取上げた人は、固定電話機(2)と通話を終えたら一旦送受話器(42)を置いて、再度該送受話器(42)を持ち上げる。一旦、送受話器(42)を置くことにより、フリップフロップ回路(29)はリセットされるので、再度送受話器(42)を取り上げたときは、NOR回路(18)の出力は「H」レベルになり、トランジスタ(Q4)、(5)が導通し、リレー(4)、(5)は通電される。該リレー(4)、(5)が通電されると、スイッチ(ヘ)の端子(F0)と端子(F1)、スイッチ(ト)の端子(G0)と端子(G1)が接続され、かつ、基地局(1)と移動電話機の送信回路(16)、(43)及び受信回路(10)、(41)が共に動作しているので、移動電話機と他の加入者との通話が可能となる。」(4頁右下欄13行ないし5頁左上欄6行)と記載されており、これらの記載によれば、甲第7号証には、固定電話機で受信した他の加入者からの通話を保留して移動電話機の近くの人に転送するための手順が開示されていることは明らかである(原告らも、甲第7号証に、固定電話機側が受けた外線を保留して移動電話機側に転送することができるとの記載があること自体は認めている。)。
そして、甲第7号証の第1図(同号証の実施例における電話装置の基地局の要部ブロック線図と、基地局に接続された固定電話機を示す図)によれば、同号証の電話装置においては、外線を保留、転送しようとしてスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を固定電話機側から移動電話機側に切り替えると、電話回線と固定電話機間にネオンランプ6とコンデンサ7が介装されるため直流ループが遮断されるものであることが認められる。
(2) ところで、乙第1号証(「わかりやすいC400形クロスバ」 一二三書房・昭和51年2月10日4改訂版発行)の「(6)通話の終了」の項には、「通話が終了すれば、発着両加入者が送受器をかけ、回路が切断されますが、発信加入者が先に送受器をかけた場合と、着信加入者が先に送受器をかけた場合とでは、復旧動作が異なります。」、「着信加入者が先に送受器をかけると、a.OGTでは、発信加入者が送受器をかけるまで通話路が保持され、着信加入者も、通話中の状態で保留されます。(着信加入者の電話は使用できない。)これを防ぐため、OGT架ごとに出トランク用架付加ユニット(OGTFAU)を搭載し、その働き切り強制切断回路により、3~6分で回路を切断、復旧させます。」と記載されていることが認められ、この記載によれば、受信側で回線を遮断しても「働き切り強制切断回路」が働かなければ、通話中の状態で保留されるような交換機が、甲第7号証の発明の出願日(昭和53年6月28日)当時すでに知られていたものであることが認められる。そして、この交換機によれば、少なくとも3分程度は通話中の状態が保持されたままで回線が復旧せず、通常の転送操作はこの間に行えるものであることが明らかである。
(3) 上記のとおり、甲第7号証には、固定電話機側が受けた外線を保留して移動電話機側に転送しようとして、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を固定電話機側から移動電話機側に切り替えると、直流ループが遮断されるものが示されていること、及び、発信者と受信者との間に交換機を介して回線が設定された後に、発信者が送受話器を着信者より先に下ろさない限り、着信者が先に送受話器を下ろしても回線が保留となるような交換機が、甲第7号証の発明の出願当時すでに周知であったと認められることに照らすと、甲第7号証の電話装置は、外線を保留、転送しようとして、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を固定電話機側から移動電話機側に切り替えると、直流ループが遮断されるものであるが、同号証は、固定電話機が外線からの呼を受信後、受信側である固定電話機の直流ループが遮断されても、発信側である他の加入者が先に送受話器を下ろさない限りは回線が保留される交換機を前提として、そのようなタイプの交換機についての保留、転送の技術を開示しているものと認めるのが相当である。
したがって、甲第7号証の電話装置は、固定電話機側が受けた外線を保留して移動電話機側に転送することができるものであるとした審決の認定に誤りはない。
原告らの主張は、固定電話機と回線との間の直流ループを遮断すると、回線が切れてしまう交換機のみを前提とするものであって失当である。
(4) 以上のとおりであって、甲第7号証の電話装置は保留、転送ができるとした審決の認定は誤りであることを前提とする原告らの上記主張は朱当であり、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について
(1) 甲第7号証には、「スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)が固定電話機側に設定されている場合・・・通常の電話機として他の加入者との通話が可能である。」(4頁左上欄4行ないし9行)、「固定電話機(2)を受信した人が移動電話機の近くの人に転送したい場合は、相手側に転送の旨を告げ、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定して、コールスイッチ(チ)を閉じる。・・・ブザー回路(47)が動作する。」(4頁右上欄14行ないし左下欄5行)と記載されている。そして、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定することにより、外線が保留状態に設定されるものであることは前項に認定のとおりである。また、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を移動電話機側に設定することで保留状態とされた後、スイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)を固定電話機側に設定すると、保留状態が解除され、他の加入者と固定電話機側との通話が可能になること、及び、コールスイッチ(チ)を開くと基地局(1)の送信回路(16)が不動作となって搬送波の送出を停止し、移動電話機の受信回路(41)で搬送波が受信されないので、受信回路(41)からスケルチ信号が出力されず、ブザー回路(47)の動作が停止することはその回路動作上からも明らかである。さらに、「外線を保留すると共に制御信号を送出すること」、及び、子局が応答しないとき、電話装置を復旧するために、「外線の保留を解除すると共に制御信号の送出を停止すること」はそれぞれ、転送に際してとられる1セットの動作として自明の事項である。
以上の点を総合すると、甲第7号証には、外線の保留及び制御信号の送出のみではなく、保留の解除及び制御信号の送出の停止についても開示されているものと認められる。
(2) 甲第6号証に、ボタン電話装置の転送方式に関し、電話機Aが局線と通話中、ノンロック式の電鍵Aを操作すると局線が保留され、ノンロック式の電鍵Aを操作中、電話機Bの発振器30Bが局線からの電流により駆動されると呼出表示の回路が形成され、呼出表示に電話機Bが応答すると、局線が保留されるとともに、電話機Aと電話機Bは局線からの通話電流によって内線相互通話路が形成されること、内線相互通話の後に、電話機Aの送受器をかけフックスイッチ27Aが開くと、前記保留が解除されて局線と電話機Bとの通話路が形成されて転送が完了することが記載されていることは、当事者間に争いがなく、また、同号証には、「局線通話の転送に際し、ただ一つの電鍵を操作するだけで足り、操作が極めて簡単である。」(4頁右上欄10行ないし12行)と記載されていることが認められる。したがって、同号証には、局線の保留と呼出表示という2種類の動作を、単一のスイッチである電鍵28Aを操作することによって行わせることにより、操作を簡単にすることが示されているということができる。
ところで、甲第6号証には、外線の保留の解除、制御信号の送出(呼出表示)の停止については直接記載されていないが、子局が応答しない場合、外線の保留を解除すると共に制御信号の送出を停止することは、電話装置を復旧するために当然とられる1セットの動作として自明の事項である。
(3) 甲第6号証及び第7号証に開示されている事項は上記のとおりであり、また、いずれも転送技術に係るものであるから、甲第6号証に開示されている、2種類の動作(保留と呼出表示)を単一のスイッチ操作で行わせるという技術思想を、甲第7号証のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)にも適用して、これらのスイッチを単一のスイッチにして操作を簡単にしようすることは、当業者において容易に想到し得ることと認められる。
(4) 原告らは、甲第6号証記載のものは、本願発明の必須の構成である1個の転送スイッチで、保留、保留の解除、制御信号の送出、及び制御信号の停止という4つの動作を行わせる構成を有しておらず、また、本願発明における、電話機の操作を簡単にすることができるという作用効果を期待することができないものであるから、甲第7号証の2種類のスイッチを、本願発明のように単一のスイッチにすることは当業者が容易に想到し得ることではない旨主張するが、叙上説示したところに照らして採用できない。
(5) 以上のとおりであって、相違点〈1〉についての審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。
3 取消事由3について
(1) 本願発明の転送スイッチは、そのスイッチ操作により、「外線を保留状態にすると共に制御信号を送出状態にすること」、子局の応答がなければ、「外線の保留状態を解除すると共に制御信号の送出を停止状態にすること」という組み合わせとしての具体的動作をしているものであるが、上記2において認定したとおり、甲第7号証のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)も、転送に際し、同様の動作を行うものであって、本願発明の転送スイッチと甲第7号証のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)とは、そのスイッチ操作により、「外線を保留状態にすると共に制御信号を送出状態にすること」、「外線の保留状態を解除すると共に制御信号の送出を停止状態にすること」という組み合わせとしての具体的動作を行うという点では一致しているのである。そして、審決が、本願発明の転送スイッチと甲第7号証のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)との間に、そのスイッチ操作により上記のような一致点があることを前提として相違点〈2〉を摘示していることは、審決の理由の要点により明らかである。
ところで、本願発明においては、外線を保留状態及び制御信号を送出状態に設定するスイッチ操作と、外線の保留の解除及び制御信号の送出を停止状態に設定するスイッチ操作、すなわち、外線の保留の解除及び制御信号の送出の設定を解除するスイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行うものであるが、スイッチの操作を同一の操作で行えれば、同一のスイッチの操作で交互にオン・オフ(設定と設定の解除)を行うことができ、操作が簡単になることは自明のことである。そして、甲第8号証(特開昭49-40404号公報)には、親子局間における無線通信方式に係る発明において、親局の個別呼出用ボタン16aの同一操作で、電源スイッチングトランジスタ35が導通(設定)あるいは非導通(設定解除)となる技術が記載されており、これによれば、親局と子局を無線で結ぶ通信技術分野において、設定と設定の解除とを同一の操作で行うスイッチは、本願発明の出願当時周知であったものと認められる。
そうすると、外線を保留状態及び制御信号を送出状態に設定するスイッチ操作と、外線の保留状熊の解除及び制御信号の送出を停止状態に設定するスイッチを、それぞれ同一の操作で行うようにすることは容易に想到し得ることと認められ、また、同一の操作で行うものとしたことによる、「使用者に対する操作方法を簡便にすることができる」(甲第5号証3頁2行、3行)という本願発明の作用効果も格別のものということはできない。
(2) 原告らは、本願発明は、転送スイッチに、保留、保留の解除、制御信号の送出、及び制御信号の停止という4つの動作をさせるのに、転巻スイッチを同一操作で行うようにしているのであって、設定と設定の解除とを同一の操作で行うスイッチ自体が、親局と子局を無線で結ぶ通信技術分野において周知であるとしても、そのことから甲第7号証の2種類のスイッチを、本願発明のように単一のスイッチにし、かつ、同一の操作とすることは、当業者が容易に想到し得ることではない旨主張する。
しかし、単一のスイッチを想到することの容易性は前記2に説示したとおりであり、転送スイッチを同一の操作で行うものとすることの想到容易性は上記(1)に説示したとおりである。
また、原告らは、甲第8号証には、本願発明の必須の構成要件の一部のさらにその一部である制御信号を送出状態にすることと、制御信号の送出を停止状態とするための各スイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行うことは記載されていても、外線を保留状態にすることと、外線の保留を解除するための各スイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行うことが記載されていないことをも、相違点〈2〉の想到容易性を妨げる事由として主張している。
しかし、前記のとおり、本願発明の転送スイッチと甲第7号証のスイッチ(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及びコールスイッチ(チ)とは、そのスイッチ操作により、「外線を保留状態にすると共に制御信号を送出状態にすること」、すなわち設定と、「外線の保留状態を解除すると共に制御信号の送出を停止状態にすること」、すなわち設定の解除という組み合わせとしての具体的動作を行うという点では一致しているものであるところ、設定と設定の解除という観点からみた場合に、これらの動作を同一の操作で行うスイッチ自体が周知であることから、相違点〈2〉に係る本願発明の構成が容易に想到し得るものと判断できるのであって、甲第8号証に外線を保留状態にすることと、外線の保留を解除するための各スイッチ操作を、それぞれ同一の操作で行うことが記載されているとして、上記判断に至ったものではないから、原告らの上記主張は失当である。
(3) 以上のとおりであって、相違点〈2〉についての審決の判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。
4 取消事由4について
(1) 審決の理由の要点によれば、審決が、相違点〈3〉に発明があると認めることができないとした趣旨は、子局の呼出しの停止を、本願発明のように制御信号の送出停止で行うか、甲第7号証のように子局のブザー回路の動作停止で行うかという点の違いに格別技術的意義はなく、いずれを採用するかは設計事項にすぎないと判断したことによるものと認められる。
ところで、乙第2号証(特開昭53-20704号公報)には、「本発明は、電話回線に接続された電話機から離れた位置に於いても、無線により着信呼に対する応答を可能とした無線電話機に関するものである。」(1頁右下欄2行ないし4行)、「着信呼の表示により応答スイッチRSをオンとすると、無線送信部T2が動作して搬送波がアンテナANT2から送出される。それを無線受信部R1で受信し、その受信レベルが所定値以上であるか否かを回線切換識別器1Dで識別し、第2の電源スイッチSWBをオンとする。それによって回線切換スイッチLSWが動作し、フックスイッチFSを動作させた場合と同様の状態となり、交換機は被呼者応答によって呼出信号の送出を停止して、発呼加入者との通話路を形成する。」(2頁左下欄18行ないし右下欄7行)と記載されていることが認められ、これによれば、子局となる無線受信部の呼出停止を制御信号である呼出信号の送出停止で行うことは、本願発明の出願当時周知の技術手段であったものと認められる。
また、乙第3号証(特開昭49-99404号公報)には、「子器の押釦スイッチを操作すると親器内の限時保持回路および発振器によりスピーカより一定時間発振音を発し、親器のリセット押釦スイッチの操作により前記発振器の持続時間中において発振音を停止せしめる如くしたことを特徴とするインターホーンの呼出し方法。」(特許請求の範囲)が記載されており、呼出し(制御信号)の発振音を停止する手段を応答側に設けることも、周知の技術手段であると認められる。
そして、子局の呼出しの停止を、本願発明のように制御信号の送出停止で行うことと、甲第7号証めように子局のブザー回路の動作停止で行うこととの間に、作用効果において格別差異があるとは認められない。
したがって、相違点〈3〉についての審決の判断に誤りはない。
(2) 原告らは、本願発明の場合、親局で送出信号を止めてしまうので、子局が親局からの信号を受けた状態でブザー回路そのものを切るのに比べて、消費電力の節約や通話中に雑音がでにくいという作用効果を奏する旨主張するが、本願明細書にこの点についての記載はなく、また、上記作用効果を奏することが本願明細書の記載から自明であるということもできない。
また、原告らは、出願に係る発明と、対比される発明との間に構成上の差が存する場合、その差が容易に想到し得るものと判断するには、その構成の差そのものが公知であることが必要であって、明細書に公知の技術と同じ作用効果しか記載されていないことをもって、構成の差を無視し、当該発明が容易であるとするのは相当ではないものというべきところ、制御信号による呼出しに子局が応答した場合、親局で送出信号を止めてしまうという構成は公知ではない旨主張するが、上記(1)に説示したところに照らし採用できない。
したがって、取消事由4は理由がない。
5 取消事由5について
本願発明は、前記二項掲記の作用効果を奏するものであるが、本願発明の構成を採択することにより(このこと自体容易に想到し得るものであることは、叙上説示したとおりである。)、当然予測できる程度の作用効果であって、格別顕著なものということはできない。
したがって、取消事由5は理由がない。
四 以上のとおりであって、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。
よって、原告らの本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)
別紙図面1
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別紙図面2
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別紙図面3
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